- ヘンリー・F.マクブライト, 林 望
- 「日本再見録―ヘンリー君の現代日本ウォッチング!
」
PHP研究所
イギリス人青年、ヘンリー・マクブライト氏が、文部省(当時)の教師招聘プロジェクトに応じて合格し、東京近郊の高校の英語教師として日本に渡った。そのヘンリー氏の目に映る「日本」とは如何に?
さて、タイトルにもなっている「再見録」。なぜに「再見」かというと、ヘンリー氏の曾祖父である、ウィリアム・マクブライト氏は、1920年代の半ばに、『極東発見(原題”The Far East I Found”,1926.Duckwell,London)』なる書物を著した人物なのだという。曾祖父は、この時代のイギリス人が、ややもすれば持ちがちだった、ある種の傲慢さとは無縁の人物であり、怜悧で公平な視線でもってして、極東日本を描き表わしたのだという。家族の歴史として、この曾祖父の話を聞いて育ったヘンリー氏は、日本という国に興味を持ち、長じて教師招聘プロジェクトに公募したというわけ。
訳者は、おなじみ林望(リンボウ)先生。リンボウ先生が訳すのに、まさにぴったりな題材ではございませぬか?
序
第一章 学校にて
教育現場で唖然、呆然
第二章 町を歩けば
氾濫する「自販機」の狂気
第三章 便所と神様
美徳?悪徳?「無菌」の国
第四章 不思議な旅
修学旅行、初日の夜から大酒乱酔
第五章 日本食(Japanese food)tohananika
ラーメン、カレーが日本料理代表?
第六章 郵便受けの中の人生
驚嘆!「宅配裏ビデオ」のカラクリ
第七章 結婚式の奇々怪々
無宗教国の超宗教的儀式
訳者あとがき
INDEX
高校教師となったヘンリー氏は、目次にあるような様々な出来事に遭遇する。様々な出来事といっても、高校教師として招かれただけあって、出会う出来事も、まさに庶民的というか、地に足がついてる感じ。年の近い同僚の”ヤマシタ”の助けを借りて、日本および日本文化への理解を深めるヘンリー氏の目線は、鋭くも温かい。
同じ日本人から見ても、結婚式は結構不思議なことが多いけれど、修学旅行はあって当然と思っていたので、そこまで疑ってみることがなかったな~。けれど、「イギリス人ヘンリー氏」の目を通してみる、修学旅行の不思議なこと!「宅配裏ビデオ」のカラクリは、あれが詐欺の一種だとは全く知らなかったのだけれど、とにかくポルノ的なものが氾濫している日本の現状は、外からはかなり不思議に見えるものなのだね。同僚のヤマシタ氏が、これまた飄々とした人物で(第七章の結婚式は、ヤマシタ自身のものなので、その章においては、かなり草臥れてもいるのだけれど)、二人のやり取りもなかなか面白いのです。
さて、残念なことを一つ。「訳者あとがき」を見て驚いたのだけれど、著者のヘンリー・マクブライト氏は持病の喘息発作から心不全を発症して、訳稿の完成の二か月前、二十九歳にして急逝されてしまったのだという。なので、この本は本国イギリスではなく、日本でのみ刊行されるという変則的な形になったのだとか。残念です…。