「夜市」/異世界と少年と | 旧・日常&読んだ本log

旧・日常&読んだ本log

流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

以降の更新は、http://tsuna11.blog70.fc2.com/で。

恒川 光太郎
夜市

雷の季節の終わりに 」が良かった恒川さん。
デビュー作であるこちらも借りてきました。

どこか懐かしく、切なくもある雰囲気は、こちらも同じ。こちらの方が、随分「切ない」によっているけれど。「懐かしい」という感情には、失われたものを悼む思いも含まれるわけで、そもそも「懐かしい」と「切ない」は非常に近い場所にある感情なのかもしれない。

読後感としては、中村文則さんの「
土の中の子供 」を読んだ時に似ているな、という印象。虐待されているわけでも、シチュエーションが似ているわけでもないのだけれど、世界との不器用な関わり方に、似たものを感じたのだと思う。

目次
夜市
風の古道
 選評


第12回日本ホラー小説大賞受賞作の「夜市」「風の古道」の二本立て。

「夜市」は、何でも手に入る市、「夜市」を描いたもの。それは夜に開かれ、異形の者どもが異形の品々を売る市場。私たちと同じ世界だけではなく、こことは異なる世界からも、夜市を目指してやってくる客がいる。夜市の仕組みは一つ。それは、取引をする場所であるということ。取引を済ませなければ、客は夜市を抜け出ることは叶わず、夜明けが来ることがない。

高校時代の同級生、祐司の誘いでこの夜市へとやって来たいずみ。夜市の仕組みなど知らず、ちょっと変わった場所に行くという程度の軽い気持ちで、入り込んだいずみとは異なり、祐司には祐司の目的があったようである。彼は、子供のころにこの夜市へ、迷い込んだことがあるようなのだが…。

「風の古道」は、こちらもまた異世界のお話。この世界のどこかには、古より伝わり、特殊な力が働く「道」がある。その呼び名は、古道、鬼道、死者の道、霊道、樹影の道、神わたりの道、とさまざま。本来、ただの人間が、この道に入ることなど、叶わないはずなのであるが…。

十二歳の夏休み、「私」とカズキは、ちょっとした冒険のつもりで、その道の中へと入ってしまう。このちょっとした冒険は、思いのほか、高くつく。古道を旅する青年「レン」に助けられ、「私」とカズキは出口を目指すのであるが…。道のものは何一つ持ち出せず、道で生まれたものは道が世界の全てとなる。

輸入業を営むホシカワ、「悪い奴を退治する」コモリには、「雷の季節の終わりに」の穏の世界を思い出す。

どちらも、少年が異世界に放り込まれ、自分たちの世界とは違う、その異世界のルール、仕組みに翻弄される話とも言えましょうか。自分たちの世界のルールとは違うとはいえ、放り込まれた少年たちは、その世界のルールに異を唱えることも出来ず、歯を食いしばりながら、食い下がっていく。風の古道」のラストにもあるように、これは成長の物語ではなく、何も終わらず、変化も克服もしないけれど、少年たちの必死の判断が痛い。夜市」の祐司しかり、風の古道」の「私」しかり…。

何が何でも成長主義!とは異なる道を行く、幻想的な物語。甘いばかりではない痛みも残るけれどね。