「チューリップ・タッチ」/何が彼女をそうさせたのか | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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アン ファイン, Anne Fine, 灰島 かり
チューリップ・タッチ

表紙もちょっと恐ろしげなのだけれど、実際、怖い、重苦しい話です。

ホテルの雇われ支配人を父に持つ、少女ナタリーは、ある日、一家で百以上の客室があるパレス・ホテルへと移り住んだ。そこで出会ったのは、風変りな少女、チューリップ。ぼさぼさの髪にみすぼらしい服装、虚言癖。チューリップは学校でも鼻つまみ者だったけれど、穏やかなナタリーは、チューリップの持つ烈しさに、すっかり魅せられてしまう。

ナタリーとチューリップは、様々な遊び、悪戯を二人で共有する。父はナタリーがチューリップと遊ぶことは止めなかったけれど、彼女がチューリップの家へと行くことは禁止した。そう、チューリップの家は、素晴らしい家庭環境とは言い難かった。酔っては暴れ、信じられない暴言を吐く父、父を止めることも出来ない母…。

体の弱い弟ジュリアスと比べ、穏やかで手のかからない娘であったナタリーは、忙しい両親の目に留まらない術を覚え、チューリップとの極彩色をした悪戯の世界にのめり込む。小学校から中学校へと進んだ二人の悪戯は、更に度を越したひどいものになる。ナタリーがチューリップに惹かれたのはその烈しさ故だったけれど、チューリップがナタリーを選んだのは、彼女が常に従順で逆らわなかったから?、ナタリーの胸に小さな疑問がよぎる。そして、チューリップはやり過ぎた…。小屋に灯油をまいて火をつけ、燃やしたとき、ナタリーははっきりとチューリップとの決別を意識する。

それからのナタリーは、溺れていた人間が水中から必死で浮上するように、チューリップを振り切って、正常な学校生活へと一人戻って行く。しかし、二人でやっていた遊びから一人が降りてしまった場合、残された一人はどうなる? チューリップはますます悪くなる。

一日一日を必死で生き伸びていたナタリーだったけれど、大人はそんな彼女の心中も知らずに、勝手なことを言う。あのかわいそうなお友だちは最近どうしたの? あの子は邪悪な子、もともと付き合うべきではなかったのだ…。厳格な人々はチューリップを遠ざけることを望み、「心やさしい」人々は適度な距離でチューリップとの付き合いを続けることを望む。でも、それはチューリップやナタリーのためを思ってのことではなく、自分たち大人の感情を満足させるためのものではないのか?

子供には力がない。ナタリーはチューリップに引き摺られないために、すっぱりと彼女との関係を断つしか方法はなかった。しかし、大人は違うはずなのだ。チューリップはなぜああなってしまったのか。誰も彼女を救えなかったのか。そして、チューリップが選んだ最後の<遊び>。

ナタリーは回想する。

チューリップといっしょに過ごした日々を、後悔することなどできない。ときどきあたしは、もう二度と、ああいう強烈な日々、赤く燃える夜や、白くかがやく昼を過ごすことはないのだろうかと、不満に思う。でも、そんなはずはないとも思う。人生を色彩豊かにする方法は、星の数ほどあるはずだ。あたしはいつか、自分で自分の方法を見つけるだろう。

でも、そんな風に将来のことを思っても、チューリップという少女のために、ナタリーは心を痛め続ける。誰も彼女を救えなかったのか? 彼女の心の扉まで、誰もたどり着けなかっただけではないのか?

やるせなさという点では、桜庭一樹さんの「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない 」を思い出しました…。子どもは無力。彼らの周りの世界が狂っているとき、子どもはどうやって世界に立ち向かえばいいのか??

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。