「歩く」/それは小さな一歩から | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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ルイス・サッカー, 金原 瑞人; 西田 登
歩く

」、サイドストーリー的な「 」に続くのは、アームピット<脇の下>を主人公とした物語。

あのグリーン・レイク・キャンプ少年院(文庫を確認したら、”グリーン・レイク少年矯正キャンプ”でした)を出たアームピットは、レイククリーク灌漑造園会社に時給七ドル六十五セントで雇われ、またしてもシャベルを握っていた。

地元オースティンに戻ってくるとき、アームピットが自分に与えた課題は五つ。その一、高校を卒業する、その二、仕事を見つける、その三、貯金をする、その四、喧嘩の引き金になりそうなことはしない、その五、アームピットというあだ名とおさらばする。そう、大切なのは、こういった地道な一歩一歩。カウンセラーは言う。グリーン・レイク・キャンプを出たアームピットの人生は、いわば激流の中を上流に向かって歩いて行くようなもの。それを乗り切るコツは、小さな一歩を根気強く積み重ねて、ひたすらに前に進むこと。もしも、大股で一気に進もうとしたならば、アームピットは間違いなく流れに足元をすくわれて、下流へと押し戻される…。

さて、オースティンには、同じくグリーン・レイク・キャンプを出たX・レイ<X線>が居た。地道な生活を心がけるアームピットに対し、X・レイは浮ついた考えを捨てきれないようで…。X・レイがアームピットに持ちかけてきたのは、人気歌手、十七歳のアフリカ系アメリカ人の少女、カイラ・デレオンのコンサートチケットのダフ屋行為。

勿論、地道な生活を心がける者ならば、こんな誘いに乗ってはいけないのだけれど…。話に乗ると告げた時から、後悔が始まっているというのに、アームピットはそのままずるずるとX・レイに引き摺られることに…。

さて、このアームピットとX・レイの話に挿入されるのは、人気歌手カイラ・デレオンその人の生活。三週間半で十九のホテルのスイートに泊まるような生活だけれど、大人ばかりに囲まれた彼女の生活もまた、それはそれで大変そうで…。

アームピットとカイラの人生が交わるとき、さて、何が起こるのか?

同じく、グリーン・レイク・キャンプに居たとはいえ、やってもいない盗みのせいで捕まった、「穴」の主人公、スタンリーとは異なり、アームピットは同情の余地があるとはいえ、実際に罪を犯した少年です。その辺は、だから物語としては、高校におけるアームピットの苦労や、家族のアームピットへの目など、少々厳しくなっているようにも思います。

そんなアームピットを助けるのは、高校の同級生の女の子などではなく、隣の家の脳性まひの白人の女の子、まだ十歳のジニー。年や肌の色、性別は違えど、二人は親友。結果として、アームピットとカイラを結び付けるのも、このジニー。ジニーとアームピットとの会話はほのぼの。ガタイのいい黒人の青年と、よわよわしい白人の女の子。好対照の二人だけれど、人間は誰かに尊重されることで、初めて自分を大切に思えるもの。アームピットはまさにジニーによって、そういった感情を引き出される。

訳者は変われど、ルイス・サッカーの本のリーダビリティは全く変化なし。ちょっとのつもりで読みはじめたら、ぐいぐいと読み進んでしまいました(しかし、金原さんって、翻訳ものの児童文学の内、えらい数に顔出してませんか??)。

 小さな一歩
  いく当てはない だから
   小さな一歩で

    一日一日を生き抜いていこう
     小さな一歩で
      どうにか自分を取りもどせたら
       道の途中で いつかわかるかもしれない
        自分はいったいだれなのか
                             (P343より引用)

そして、アームピットは最後にまた五つの目標をたてる。
その一、高校を卒業する、その二、オースティン・コミュニティ・カレッジに二年通う、その三、テキサス大学に編入できるようにがんばる、その四、やばい事には手を出さない、その五、アームピットっていうあだ名とおさらばする。

爽やかな青春小説です。是非この続きも読みたいもの! そして、弁護士もしくは有名なペテン師になれるのでは?と揶揄される、X・レイの物語も読みたいなぁ(最後、ちょっと見直すものの、X・レイって調子良すぎて、ひどいのだものー。いくら笑顔が良くたって、ダメだよう。ええ、ぜひ更生して貰いたいものであります)。グリーン・レイクものとして、色々な登場人物にスポットが当たるシリーズが出来れば嬉しいな~。

*臙脂色の文字の部分は本文中より引用を行っております。何か問題がございましたら、ご連絡ください。