「最悪」/どん詰まりのまま突きぬけろ | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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奥田 英朗

最悪 (講談社文庫)


トンでも精神科医・伊良部シリーズ の奥田さん。
伊良部シリーズ以外も読んでみよう!、なわけであります。

ここで描かれるのは、きっと精神科医などには行かない(もしくは、行けない、行こうなどという考えすら浮かばない?)、でもそれぞれの状況で追い詰められた人々。

日々の生活に疲れ、金策に苦しみ、近隣住人に工場の騒音を突き上げられる、鉄工所の社長、川谷(とはいえ、従業員は妻を入れても3名)。パチンコの儲けで日々を暮らす内に、悪い仲間と知り合い、ヤクザから抜き差しならぬ状況に追い込まれる青年、和也。巻き込まれるのは、かもめ銀行に勤めるみどりと、その妹めぐみ姉妹。この上なく閉鎖的な職場である銀行で、支店長からセクハラを受けたみどり、優等生であるみどりとは対照的なめぐみは、彼女のルートで和也と知り合いになる。

それぞれに最悪な、人生どん詰まりの状況。

めぐみの提案により、和也はみどりの勤める銀行を襲い、銀行強盗が妹であることを知ったみどりは人質となることを志願する。たまたまカウンターに居た川谷もまた、なぜか彼らの逃避行に合流し…。

事態は呆れるほどに、ぐずぐずと最悪へと雪崩れ込む。

金属加工などの描写や銀行を襲う場面、それぞれの事情が事細かに語られる様には、高村薫の「黄金を抱いて飛べ」や、「李歐」あたりを思い出すのだけれど、あちらがねちねちと綿密に計画を進めるのに比べ、こちらはいかにも全てが行き当たりばったり。あと少しのタイミングが違っていたら、誰かがそこで手を差し伸べていたら、またそんなに追い詰めなかったなら、「最悪」な状況は避けられたはずなのだけれど…。

クライム・ノベルとしては、登場人物たちは如何にも気が弱すぎるし、計画性もほとんどなし。かといって、めためた具合では、戸梶圭太(とはいえ、「溺れる魚 」一冊しか読んでないけど)には負けている。

これは、この雪崩のような様を楽しむ小説なのかな。しかし、真面目に働いてきた川谷社長が可哀相でねえ。近隣住民との軋轢など、ほんとにやりきれませんな。お隣の太田さん(特に「分かりますか?」を連発するご主人)は、伊良部に診てもらって、やっつけられるといいと思うですよ…。あと、かもめ銀行も是非、伊良部にぶっ壊してもらいたい。