「つまみぐい文学食堂」/ブンガクにおける食べ物とは? | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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柴田 元幸
つまみぐい文学食堂

目次
~Menu~
メニューについて
~Horsd'Oeuvre~
I LOVE Garlic
Be Vegetarian
不在の食物
根菜類等
~Fish~
鯨の回想風
イカ・タコ
ディナーの席で
~Meat~
菌類
豚肉を食べましょう
一族集合
動物はお友だち
人等
~Specials~
Let's Party
クリスマス特別メニュー
不味い食事
空腹、飢え、断食
~Beverages~
一杯のお茶を持てば
一人酒場で飲む酒は
ブローディガンの犬

~Desserts~
リンゴはなんにも言わないけれど
カフェ等
ワシントン広場の夜は更けて

あとがき対談
INDEX①
INDEX②


「文学」であっても、「つまみぐい」。「文学」だけれど、「レストラン」ではなく「食堂」。漫画家吉野朔美氏による、ユーモラスかつ、ちょっと不気味な絵に相応しく、ここに出てくる食べ物は決して肩肘張るものでもない代わりに、美味しそうなものばかりとも言えず…。

でも、実に楽しい本!

アガサ・クリスティーの食卓 」、「パトリシア・コーンウェルの食卓 」、「宮沢賢治のレストラン 」、「作家の食卓 」など、このブログの中だけでも、作家と料理についての本は結構読んでいるのですが、これら至ってノーマルな本とこちらの本との違いは、ここに出てくる食べ物は必ずしも実在のものではなく、また時にとてつもなく不味そうなこと。「実在ではない」といっても、描かれるのは「物語の中だけに出てくる、実在しない美味しそうな食べ物」などではなく、猛烈にそれが食べたいのに、食べることの出来ない不在の哀しみだとか。

飄々とした柴田さんの語り口、ひょいひょいと話が飛んでいくところもなんだか楽しい(あとがき対談を読むと、「素材が三つあればひとつのエッセイが書ける」とある)。ああ、こんな授業が受けられるのだとしたら、文学部でブンガクを学ぶのも悪くはないよな。いいなー、東大文学部の学生さん。そして、「柴田クン」と思しきキャラクターが描かれるその章の扉絵も実に楽しい(表紙と同じく吉野朔美氏による)。あとがき対談によると、吉野さん自身、柴田さんのファンであるそう。だからこその、この素敵な挿絵なのかな。

INDEX①は人名・作品名・書名から、INDEX②では食べ物の名前から、ページを引くことが出来る。装丁なども含めて、いやー、これはいい仕事だわ。

さて、この中で私が気になったのは、以下の本、ということで、いつものように、メモメモ。

■ケン・カルファス「見えないショッピング・モール」(『どこにもない国 現代アメリカ幻想小説集』)
■ニコルソン・ベイカー「下層土」(『どこにもない国 現代アメリカ幻想小説集』)…ニコルソン・ベイカーが、あのスティーブン・キングに酷評されて「ふん、キングみたいなホラーなら俺にだって書けるさ」と対抗して書いたのだとか。恐怖の源がジャガイモってところがすごい。
■トルーマン・カポーティ「クリスマスの思い出」(『誕生日の子どもたち』)
■リチャード・ブローディガン「アメリカの鱒釣り」
■W・G・ゼーバルト『目眩まし』
■登場回数も多い、トマス・ピンチョンという作家

そして、柴田さんが取り上げておられる本の共通項としては、どうも「妄想」というフレーズがどこかに忍び込んでいるような気がしてなりません。「妄想」といえば、岸本さん(エッセイ「気になる部分 」)ですが、この「つまみぐい文学食堂」を読んですっかり柴田さんのファンにもなったのでした。愛すべき「ヘンさ」「奇妙さ」「奇想」ってありますよね。

これまで読んだ柴田さんの翻訳は、ポール・オースターの「最後の物たちの国で 」のみなんだけど、翻訳もエッセイも、もっといろいろ読んでみたいと思ったことでした。


と、思ったら、スティーヴン・ミルハウザーの「バーナム博物館 」も読んでました。これも面白かったけど、妙ちきりんな話だったなぁ。