「雷の季節の終わりに」/神なる季節が終われば、少年は・・・ | 旧・日常&読んだ本log
恒川 光太郎
「 雷の季節の終わりに
」
少年、賢也が暮らすのは、地図には載っていない、異世界・穏(おん)という町。この町には、春夏秋冬の他に、「雷季」と呼ばれる雷の季節、神の季節があった。この雷季には、人が良く消える。それは仕方の無い事だと町の人々はいい、賢也が二人で暮らしていた姉もまた、雷季に消えてしまっていた。
みなしごとなった賢也は養父母の元で暮らし、時に他の子供たちに苛められながらも、町の有力者である穂高の一家と親交を結ぶ。賢也が穏の他の人々とは違っていた事。それは、彼が穏の外から来た子供だと見なされていた事。
地図に載っていない町、穏。外の世界から穏に入ることはとても難しく、穏から出て行く者は、二度と穏に戻ってくることは叶わない。通常、穏の人間は、穏で生れ、穏で暮らし、そこで死んでいく。穏はとても小さな町。外の世界にその存在が知られたら、穏は侵略され、蹂躙される。穏の人々は、外の世界を異常に恐れるのであるが・・・。
閉ざされた町、穏。そこにはやはり歪みが生れ出る。それが、<鬼衆>、<闇番>などの穏独特のシステムを作り上げる。
穏で暮らす子供でありながら、姉の失踪時に町の人々に忌まれる<風わいわい>憑きとなった賢也は、それをひた隠しながらも、徐々に外世界へと惹かれて行く。墓町と呼ばれる廃墟で、穏と外世界との門番を務める<闇番>と親しくなった賢也は、ある事件の真相を知ってしまい、穏から追われる身となってしまう。
穏を出た賢也は・・・。また、それを追って来た少女・穂高は・・・。
虐待される外世界の少女、茜の物語がそれに絡む。
幻想的な異世界の話でもあり、少年・賢也の成長記、冒険譚でもある。<風わいわい>という物の怪、<風霊鳥>という鳥、<闇番>、<墓町>・・・。独特の用語もいい。著者は沖縄に移住されているとのことで、この独特の雰囲気に、ああ、なるほどと感じた。沖縄の離島のイメージもあるんだよな。
回想記のような体裁をとっているので、淡いノスタルジックな雰囲気もある。それがまた、この物語の幻想的な雰囲気を盛り上げているように思う。
デビュー作の「夜市」 も読んでみたいです(その後、読みました→☆
)。完成度も高く、美しい物語なのだけれど、こういう淡い感じだけではなく、もう少し破綻したというか、勢いを感じる物語も読んでみたいな~。「雷の季節の終わりに」 が面白かっただけに、ちょっと贅沢な事も考えてしまうのでした。
web Kadokawa の「雷の季節の終わりに」のページにリンク
。
デビュー作、この作品とも、装丁も美しいよなぁ。
大空を自由に飛ぶ、風霊鳥。出会ってみたいものです。
あ、一点。
恩田さんの「光の帝国
」と同じ時期に読んじゃったのですが、これもまた異世界というか、常とは違う人々を描いていて、その点で微妙に被ってしまう点もあり・・・。少々、この作品が霞んでしまう面もあって、それはちょっと勿体無かったなぁ。つくづく、読書は順番も大切ですね。
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