「夏光」/異能の人たち | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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乾ルカ
夏光

目次
第一部 め・くち・みみ
 夏光(なつひかり)
 夜鷹の朝
 百焔(もものほむら)
第二部 は・みみ・はな
 は
 Out of This World
 風、檸檬、冬の終わり


非常に巧い小説だと思います。
で、好きかと言うと、実はこれは微妙だなぁ、と思いながら読んでたのだけれど、ラストの「風、檸檬、冬の終わり」は結構好きでした。なので、ラストでちょっと評価を覆された感じ。

め、くち、みみ、は、みみ、はな。

身体の一部を主題に語られる異能の話。どれもこれも、死の匂いが強く、一部どうしようもなく陰惨でもある。その辺が、不思議を描いていても、朱川湊人さんなどとは違うところかなぁ。「風、檸檬、冬の終わり」にはまだ希望が見えるけれど、その他の物には、何だかほとんど希望がないのだ(「百焔」のあれは希望と見るべきか?)。

■夏光(なつひかり)
 
哲彦は疎開先で喬史という少年と仲良くなる。顔の左半分を黒い痣に覆われているものの、喬史の眼は実に美しいものだった。村人は、喬人の痣をスナメリの祟りだと忌み嫌うのだが…。喬人の目に流れる青い光の意味とは?

■夜鷹の朝
 
健康を害し、静養のために厄介になることになった家で、私はマスクで口を隠した愛らしい少女に出会うのだが…。

■百焔(もものほむら)
 
美しい妹マチといつも比べられる、姉のキミ。キミは幼い頃から、妹が憎くて仕方がなかった…。そんな折、出会った美しいモダンな女性、鶴乃に、キミはあることを教えてもらう。

■は
 
学生時代の友人、熊埜御堂の快気祝いに招かれた、長谷川。熊埜のたった一つの頼みは出された食事を決して残すな、というものだった。刺身や、鍋の中に入っている、非常に美味な白身の魚。熊埜の話と共に食事も進んでいくのだが…。

■Out of This World
 マコトの住む田舎に越してきた転校生のタク。タクの父はテレビに出るようなマジシャンだったが、息子であるタクを使った脱出マジックの失敗により、テレビ界から干されてしまう。タクの体には傷が絶えず、周囲の大人は、父親による虐待を心配するのだが…。

■風、檸檬、冬の終わり
 私には、嗅覚の異常があった。左右の鼻の穴から感じる匂いが一致しないのだ。いつしか、私は左からする匂いは、他人の感情が発する匂いなのだと理解する。死期が迫った恩人から、漂ってきた匂い。それは、私がただ一度だけ嗅いだ、忘れられない匂い。凛冽とした風、青さの残るレモン、冬の終わりの一時だけ大気に混じる緑と土の気配が混じり合う…。