「ラテンアメリカ怪談集」/心愉しき… | 旧・日常&読んだ本log

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2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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鼓 直
ラテンアメリカ怪談集 (河出文庫)

J・G・ポサーダなる人物による「自転車に乗るカラベラ」というカバー絵も楽しい、河出書房新書の文庫です。でも、残念ながら絶版のよう(復刊ドットコムにリンク )。「カラベラ」とはガイコツのことらしく、陽気なガイコツたちが自転車に乗っています。

ラテンアメリカの物語というと、土埃と太陽の匂いがするような、あつーい世界を想像してしまうのだけれど、勿論、そういう話もあり、またそうではないお話もあり…。でも、それぞれに魅力があって、楽しい短編集でした。結構、ボリュームがあって、なんだかんだで一週間くらいこれをずっと読んでたのだけど。

目次
火の雨            ルゴネス(アルゼンチン) 田尻陽一訳
彼方で            キローガ(ウルグアイ) 田尻陽一訳
円環の廃墟          ボルヘス(アルゼンチン) 鼓 直訳
リダ・サルの鏡        アストゥリアス(グアテマラ) 鈴木恵子訳
ポルフィリア・ベルナルの日記 オカンポ(アルゼンチン) 鈴木恵子訳
吸血鬼            ムヒカ=ライネス(アルゼンチン) 木村榮一訳
魔法の書           アンデルソン=インベル(アルゼンチン) 鼓 直訳
断頭遊戯           レサマ・リマ(キューバ) 井上義一訳
奪われた屋敷         コルタサル(アルゼンチン) 鼓 直訳
波と暮らして         パス(メキシコ) 井上義一訳
大空の陰謀          ビオイ=カサレス(アルゼンチン) 安藤哲行訳
ミスター・テイラー      モンテローソ(グアテマラ) 井上義一訳
騎兵大佐           ムレーナ(アルゼンチン) 鼓 直訳
トラクトカツィネ       フエンテス(メキシコ) 安藤哲行訳
ジャカランダ         リベイロ(ペルー) 井上義一訳


編者あとがき
出展一覧
原著者・原題・製作発表年一覧
訳者紹介


「火の雨」  
 人嫌いで屋敷に引き篭もり、読書と食事にその独身生活の全てをかける「私」。一人で食事をするその間、奴隷が私のそばであちこちの地誌を読んでくれるのだ。そんな満ち足りたある日、私は空から火の細い線が走るのを見る。それは白熱した銅の粒だった…。
 これは、私が考えていた「ラテンアメリカ」っぽいお話でした。実際に降ったら恐ろしいけど、細い線のような火の雨、美しいよなぁ。

「彼方で」
 家族に付き合いを禁じられ、絶望した恋人たちは心中を選んだ。恋人たちは実体はなくとも、その後も互いに愛を囁き、逢瀬を重ねていたのだが…。 
 愛と死と幸福と。これはどちらかというと幻想文学?
          
「円環の廃墟」  
 一人の人間を完璧に夢見て、現実へと送りだすことを望んだ男。彼は密林の中の円形の場所に辿り着き、神殿の廃墟であるその台座で夢を見るのだが…。
 こちらの方がもっと複雑だけれど、スティーブン・ミルハウザーの「バーナム博物館 」の中に収められていた「ロバート・ヘレンディーンの発明」を思い出しました。
        
「リダ・サルの鏡」  
 守護聖母さまのお祭りでは、昔からの習慣として、女子衆が供回りの装束をととのえることになっている。もう一つの習慣として言い伝えがあったのは、好きな男衆と結ばれるための御呪い。想いを遂げたい女は、意中の男衆が着る供回りの装束を着て、幾晩も眠るのだ。彼女の御呪いが衣裳にすっかり浸み込むように…。もう一つ必要だったのは、その女衆の姿を映す大きな姿見…。
 幻想的かつ土の匂いがする感じで好き。
     
「ポルフィリア・ベルナルの日記」 
 ある家庭教師の物語。イギリス人女性である彼女は、教え子であるアルゼンチンの少女、ポルフィリアの日記を読まされるうちに…。
 耽美かつホラー?

「吸血鬼」
   
 国王カール九世の従兄弟にあたる、ザッポ十五世フォン・オルブス老男爵に残されていたのは、ヴュルツブルグの城と、悪魔の毛房の通路と呼ばれる老朽化した屋敷のみだった。困窮していた男爵は、イギリスのホラー専門の映画会社に目をつけられる。脚本家として恐怖小説を書いているミス・ゴティヴァ・ブランディが選ばれ、その外見から、男爵自身が主役の吸血鬼を演じることになったのだが…。
 このお話、好きでした。そこはかとないおかしみが良し。
        
「魔法の書」 
 ブエノスアイレス大学哲文学部の古代史の教師、ラビノビッチは、ある日、古本屋で不思議な本と出会う。びっしりと文字が埋まったその本には、単語の切れ目も大文字も句読点もなかったのだが…。
 これは、「彷徨えるユダヤ人」を元にした物語なのかな(Wikipediaにリンク )。やっぱり、「本」がテーマになってると、より魅力的に感じてしまうなぁ。こんな本に出会ったら…。まさに寝食を忘れるこの読書、恐ろしいけど幸せ?
         
「断頭遊戯」
 幻術師と皇帝、その后、国王の座を狙う<帝王>の物語。
 面白かったんだけど、何だか中国を舞台にした映画を見ているようでした。  
         
「奪われた屋敷」        
 広く、古い屋敷に暮らす兄妹。ともに独身である兄妹は、互いを思いやり、ひっそりと静かに暮らしていたのだが…。いつしか屋敷の一部に入り込んだ「連中」は、彼らの生活を脅かす。
 深読みしようとすれば、色々と読みとれそうな感じなんだけど、私にはちょっと良く分らず。政治的な話にも読めるし、近親相姦的な香りもする。

「波と暮らして」 
 海を去ろうとした、「ぼく」の腕の中に飛び込んできたひとつの波。「ぼく」はその波と暮らすようになるのだが…。
 幻想的で不思議なお話。明るく包容力があり、しかし時に荒れ狂い、呪詛の言葉をまき散らす彼女は、まさに海そのもの。ラストの残酷なまでの場面には、若さや老い、男女の別れも考えちゃいます。
        
「大空の陰謀」
 テスト飛行中に墜落したイレネオ・モリス大尉が意識を取り戻した時、そこは彼が居たのとは微妙に違った世界だった。また、彼は一度ならずも二度までも、そういった体験をするのだが…。
 所謂、パラレル・ワールドものとでもいいましょうか。歴史上のifは意味がないとはいうけれど、そうやって違った世界が存在しているところが、面白かったなぁ。歴史が変われば、通りの名前すらも変わってしまうのだよね。
         
「ミスター・テイラー」     
 ミスター・テイラーが始めた新商売とは? その商売は瞬く間に彼の故国で人気を博す。
 ブラックなお話だけれど、ラストはやはり当然そうなるよね、という方向へ。舞台は南米のアマゾン地方なんだけど、どちらかというと倉橋由美子さんの本などにありそうな感じ…(だいぶ違うけど、「ポポイ 」とか「アマノン国往還記」のせいかしらん)。

「騎兵大佐」   
 通夜を営んでいる最中の屋敷に現れた死神の話。その場にいる間、彼はある魅力を発揮するのであるが…。
 うーん、その「臭い」、嗅ぎたくないなぁ。
        
「トラクトカツィネ」       
 請われて古い屋敷に移り住んだ「わたし」。書斎の窓から見える庭の景色は、ここメキシコとはかけ離れているように見えるのだが…。
 ”トラクトカツィネ”って何だー!!! ネットを見ても、やはり分らない人が叫んでいるのしか見つけられない。笑 というわけで、何と言うか、オチがない感じ?

「ジャカランダ」 
 
 妊娠中の妻を亡くしたロレンソは、職を辞してこの地を去ろうとしていたのだが…。彼の後任として現れたミス・エヴァンズの正体とは?
 うーん、どれが現実でどこからかがそうでないのか、ちょっと分かり辛かったな。
どこからか、それこそパラレルワールドに迷い込んでる気がするんだけど…。