「金春屋ゴメス」/ゴメス、現る! | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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西條 奈加
金春屋ゴメス  

第十七回日本ファンタジーノベル大賞受賞作であり、どうも評判が良いらしいこの作品。かつ、これ、表紙が魅力的でしてね。どう? ちょっと生意気そうな今時の若者が、腕時計に携帯を小道具として、きりりといなせな着物姿で表紙におさまる。実は、この「腕時計」と「携帯」を身につけているのは、作中の設定からすると、ほんとはおかしい。ま、でも、雰囲気を出すための作画なんだろうなぁ。

さて、月にも人が住まうというこの時代、日本の中には鎖国状態を貫く、「江戸」の国が存在したのです。江戸は、北関東と東北にまたがる、東京、千葉、神奈川を合わせた広さに相当する、一万平方キロメートル足らずの領土を持つ国でした。御府内と呼ばれる中心部は、十九世紀初頭の江戸を忠実に再現しており、人口約七百万人のうち、百万人がこの御府内に生活しておりました。

この「江戸」は鎖国を敷いていることから、一般人が気軽に行き来したり、ビジネスや観光目的の短期入国も認められていないという、日本人にとっては「近くて遠い国」でありました。また、電気も時計もない、まさに江戸時代と同じ生活に拘るため、「変わり者の国」としても知られておりました。

そんなこんなで、鎖国制度を敷く江戸の永住ビザを取得するのは、非常に難しいことでありましたが、何の因果か、この物語の主人公、佐藤辰次郎は一発で入国を許可されてしまいました。実は勿論、これには裏があるわけで・・・。

江戸に着いた辰次郎が身請けされ、暮らすことになったのは、一膳飯屋・金春屋。とはいえ、彼が手伝うのは、表の飯屋ではなく、裏金春。泣く子も黙る裏金春。そこに鎮座ましますのは、さながら巨大な鏡餅のような輪郭で、人間離れした怪異な風貌を持つ馬込寿々!(ゴメス)(いや、随分な言われようだけどさ。「そそけ立った髪」とかもすごいよな)

実態は、長崎奉行の出張所である裏金春。あ、長崎奉行とは鎖国時代の出島があった長崎の奉行ということで、つまりは外務省のようなものらしい。辰次郎は、甚三、木亮、寛治などの兄貴分たちと共に、江戸の町を走り回ることになる。

そして、そう、肝心の事件。辰次郎が江戸に一発入国出来たのは、実にこの事件のためであった!
過去起きた事件における唯一人の生き残りである辰次郎は、さて、首尾よく記憶を取り戻すことが出来るのか??

そうだなー、設定は滅茶苦茶面白いし、キャラもいいんだけど、この設定だったらもっと面白く出来たのでは?、と残念に思うことも多々。せっかくのキャラや設定が生きてない気がする。江戸の生活を説明する時、時々「お勉強」チックになっちゃうし、キャラもこうだ!と書いてあるだけで、それが何らかのエピソードから、すんなりと納得出来る感じではないのだよね。要は、まだこなれてない感じ? この「事件」も一作引っ張るには、ネタとしてちょっと苦しいような気がする。これだったら、短編でどんどん事件を解決してった方が、いいんじゃないかなぁ。うーむ、惜しい!

時代劇マニアで、実に二十七回目の応募で江戸に入国した松吉、江戸が二十九国目、旅行マニアの奈美。いわば、辰次郎と同期入国であるこの二人は、次作でも活躍しそうな感じ。なんだかんだいって、次作も読むとは思うので、こちらはもう少しこなれている事を期待しています。評判が良かっただけに、ちょっと期待し過ぎちゃったかなぁ。

 
西條 奈加
芥子の花    ← こちらは、二作目

☆その後、読んだ「芥子の花」の感想はこちら → 
「芥子の花」/金春屋ゴメス第二弾!
二作目では、一作目で残念に思っていたところが、ぐっとよくなって、非常に面白く読みました。続きも楽しみ♪