「かはたれ―散在ガ池の河童猫」/かはたれ時に見えしもの | 旧・日常&読んだ本log

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2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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朽木 祥, 山内 ふじ江
かはたれ―散在ガ池の河童猫 (福音館創作童話シリーズ)

裏表紙には「小学校中級以上」とあり、思いっきり児童書なんだろうけど、これは良かった。内容も大人の読書に十分に耐えるものであり、また特に平仮名が多用されるわけでもなし、子供には難しいと思われる言葉も、その章の終わりを待って説明されるため、物語の流れを殺ぐことがない。

もくじ
序章 蝶トンボのくる沼
第一章 散在ガ池
第二章 宮ノ前
第三章 丘の上の家
第四章 「ともだち」
第五章 青いフリージア
第六章 すみれ色のノート
第七章 月のしずく
第八章 河童には、できること
第九章 「迷い猫」
第十章 笛吹き
第十一章 薔薇の名前
第十二章 彼は誰(かはたれ)
第十三章 カミング ホーム
終章 河童猫


愛らしくも淋しげな表紙が印象深いけれど、これが主人公となる河童の八寸。およそ人間の十倍の寿命を持つ河童としては、八十一歳とはいえ、八寸はまだまだ子供。

さて、散在ガ池一帯の浅沼に、八寸は両親や兄弟たちと暮らしていた。ところが、ある夏のこと、八寸の兄、六寸と七寸が大騒動を起こし、八寸は天涯孤独の身となってしまった。兄たちが迷惑を掛けた、河童の中でも位の高い大池の一族にも疎まれ、また、大池の河童たちと共棲せざるを得なくなった、深沼の一族たちにも疎まれ、八寸は幼き身でありながらも一人、兄弟たちと覚えた遊びをしながら、淋しく暮らす。

そんな八寸の元に、ある日、河童族の長老からの呼び出しがやって来た。昔々の河童たちは、今とは比べ物にならぬほどの霊力を誇っていたのだという。一番大事な霊力とは、人間の心を読むことであり、心を読んではうまく立ち回っては、人間や彼らのもたらす危険を避けてきたのだ。老いたりとはいえ、長老は『河童猫の術』くらいわけはないと請け負う。そうして、八寸は猫として、夏の間、人間たちの世界で「修行」をすることになる。

人間たちの世界へと、里山を下りた八寸が、最初に仲良くなったのは、情けない顔をした犬のチェスタトンと、優しい人間の女の子、麻。八寸は猫として、麻の家で暮らすことになる。優しく八寸の面倒を見てくれる麻だけれど、実は彼女は少し前に母親を亡くしていた。父親との約束通り、二人で出来る限り、母の居た頃と変わらない形を整え、何とかしのいで生きているのだが…。

親兄弟に去られ、孤独に暮らしていた八寸、母を亡くしてから、自分の心が分らなくなっていた麻。二人は立派に再生を果たす。

「河童というのは好奇心に溢れたもので、それが子河童であるなら尚更」な八寸の悪戯は微笑ましいし、たっぷりとした月の光を浴びるさまも実に愛らしい。この物語の中では、河童と猫は実によく似た性質をもつ生き物、らしいですよ。体もつるつるではなく、緑の柔毛に覆われていたりね。

麻の亡くなったお母さんがまた素敵。「Heard melodies are sweet,but those unheard are sweeter.」との詩人、J・キーツの言葉を記した「すみれ色のノート」に、麻と一緒に耳に聞こえない音楽を探しては、書きつけていたのです。母と暮らす日々は、なんてことない毎日が、麻にとってはきっと冒険だったのだよね。