「フェルマータ」/もしも時間を止められたなら? | 旧・日常&読んだ本log

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流れ去る記憶を食い止める。

2005年3月10日~2008年3月23日まで。

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ニコルソン ベイカー, Nicholson Baker, 岸本 佐知子
フェルマータ

訳者の岸本さん目当てで借りてきた、ニコルソン・ベイカーの本。

妄想力が爆発していた岸本さんのエッセイ(→「
気になる部分 」)同様、こちらの本も物凄く変わってました~。

 もしも、時間が止められたなら?

基本設定はこれです。ワン・アイディアといえば、ワン・アイディア。

自由に時間を止める事が出来、全ての物たちが静止した状態の中、一人、自由に動く事が出来たならば、人それぞれやりたい事、やれる事は違うでしょう。

でも、この物語の中、主人公で自伝的記録をものしている途中のアーノがする事と言えば、そう、この文庫版の表紙にあるように、女性の服を脱がせたりなどの、セクシャルな行為ばかり。

アーノは、どんなタイプの女性であれ、それは純粋に女性の美を礼賛するための行為だと言うのだけれど・・・。

<襞(フォールド)>の中に入り、好き勝手に、時や他人の身体、人との関係性を弄くるアーノ。これ、amazonなどを見ると、基本的に男性目線の妄想なので、女性には不評では・・・、という意見が多かったように思うけれど、私は結構楽しんで読んじゃいました。まぁ、近くにアーノのような男性にいて欲しくはないけれど。ワン・アイディアだけど、流石に最後まで同じ展開というわけではなく、ラストの17、18章があるので、食傷せずに済んだというのもある。

アーノは実際に時を止めているわけだけれど、本来は過ぎ去っていってしまう、何でもない一瞬一瞬を愛おしむような、時を手の平で優しく撫で擦るような感触が新鮮でした。ま、やってる事は、セクシャルな妄想を実行に移しているという、ほんとけしからん事ばかりなんだけどね。

訳者の岸本さんのお遊び(? というか、訳語の工夫か)も、随所に見られまして、成長物語(ビルドゥングスロマン)をもじった性腸物語(ディルドゥングスロマン)という名の張形とかね・・・。この訳語でも分かるように、途中に挿入されるアーノ自身による猥文(ロット)は、ほとんどポルノ小説なので、そういうのが大丈夫な人じゃないと、ちょっと読むのは辛いかも。

俗語はそれなりに触れたことがあると思っていたんだけど、乳房を<ジャマイカ>っていうのは知らなかったな~。何からきているんだろう??? 英語に堪能な方ならば、岸本さんの訳やルビを更に楽しめるのかもしれません。

*私が実際読んだのは単行本なのですが、表紙絵が出てきた白水μブックスのソフトカバー版を載せています。35歳、派遣社員(テンプ)のアーノ。アーノっぽさが良く出ている表紙だわ~。

白水社